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浦和地方裁判所 平成11年(ワ)915号 判決 1999年8月06日

原告

近藤進茂

外五名

右六名訴訟代理人弁護士

田中齋治

川端基彦

被告

日特エンジニアリング株式会社

右代表者監査役

吉本満

主文

一  被告の平成一一年四月三〇日の株主総会における原告近藤進茂、同山嵜征美、同長峰由祐及び同小室勝郎をそれぞれ取締役から解任する旨の決議並びに磯田拓郎、藤原昭信、梅村克也、猿田憲、中村和行、中島達夫及び高橋利博をそれぞれ取締役に選任する旨の決議がいずれも存在しないことを確認する。

二  被告の平成一一年四月三〇日の取締役会における砂岡誠一を代表取締役に選任する旨の決議が無効であることを確認する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の申立て

一  原告ら

1  (株主総会決議について)

(一) 主位的請求

主文一項同旨

(二) 予備的第一次請求

被告の平成一一年四月三〇日の株主総会における原告近藤進茂、同山嵜征美、同長峰由祐及び同小室勝郎をそれぞれ取締役から解任する旨の決議並びに磯田拓郎、藤原昭信、梅村克也、猿田憲、中村和行、中島達夫及び高橋利博をそれぞれ取締役に選任する旨の決議がいずれも無効であることを確認する。

(三) 予備的第二次請求

被告の平成一一年四月三〇日の株主総会における原告近藤進茂、同山嵜征美、同長峰由祐及び同小室勝郎をそれぞれ取締役から解任する旨の決議並びに磯田拓郎、藤原昭信、梅村克也、猿田憲、中村和行、中島達夫及び高橋利博をそれぞれ取締役に選任する旨の決議をいずれも取り消す。

2  (取締役会決議について)

主文二項同旨

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

原告らの請求をいずれも棄却する。

第二  事案の概要

一  本件は、被告会社の取締役であるという原告ら(但し、そのうち四名は、以下の株主総会決議で解任の対象となっている。)が、被告会社に対し、(1) 平成一一年四月三〇日に開催されたという株主総会(以下「本件株主総会」という。)における取締役の解任及び選任決議(以下「本件株主総会決議」という。)について、主位的には、同決議が不存在であることの確認、予備的には、右決議が無効であることの確認ないし右決議の取消を求めるとともに、(2) 右同日に開催されたという取締役会(以下「本件取締役会」という。)における代表取締役の選任決議(以下「本件取締役会決議」という。)について、同決議が無効であることの確認を求めている事案である。

二  前提となる事実(いずれも当事者間に争いがない)

1  当事者

(一) 被告会社は、自動機(コイル用自動巻線機)及び同部品の製造販売等を目的とした資本金六八億八四九二万八〇四二円の株式会社である。

(二) 原告ら、砂岡誠一(以下「砂岡」という。)及び砂岡興産株式会社(以下「砂岡興産」といい、砂岡と併せて「砂岡ら」という。)は、いずれも被告会社の株主である。

(三) 原告らは、被告会社の取締役であったが、そのうち原告近藤進茂、同山嵜征美、同長峰由祐及び同小室勝郎の四名(以下「原告ら四名」という。)は、本件株主総会決議において、被告会社の取締役から解任されたことになっている者である。

(四) 磯田拓郎、藤原昭信、梅村克也、猿田憲、中村和行、中島達夫及び高橋利博(以下「磯田ら七名」という)は、いずれも本件株主総会決議において、被告会社の取締役に選任されたと称する者である。

(五) また、砂岡は、被告会社の取締役でもあるところ、本件取締役会決議において、新たに代表取締役に選任されたと称する者である。

2  第一回仮処分決定までの経緯

(一) 砂岡らは、被告会社に対し、平成一〇年一二月一二日、臨時株主総会召集請求書により、原告ら四名の解任及び取締役七名の選任を会議の目的事項(以下「本件会議の目的」という)とする臨時株主総会を開催するよう求めた。

(二) 砂岡らは、被告会社が、同日から六週間以内の日を会日とする株主総会招集通知を発せず、公告もしていないとして、当庁に、臨時株主総会の招集の許可を申請し(平成一一年(ヒ)第八号株主総会招集許可申請事件)、当庁は、同年三月一一日、同年四月三〇日までに、本件会議の目的について株主総会を招集することを許可する旨の決定をした。

(三) 砂岡らは、同年三月二三日付の「臨時株主総会招集ご通知」と題する書面(甲六)及び同月二五日付の日本経済新聞朝刊の「臨時株主総会招集ご案内」と題する案内(甲七)により、被告会社の株主に対し、同年四月九日午前一〇時から、与野市産業文化センターにおいて、本件会議の目的事項について、臨時株主総会を開催することを通知した。

(四) 右招集通知にあたっては、株主名簿の閉鎖ないし基準日設定の手続がとられていないので、多くの株主に対して、招集通知がされていない。

(五) 原告らは、同年三月二九日、(三)で招集通知のあった臨時株主総会につき、当庁に、開催禁止の仮処分命令を申し立て(平成一一年(ヨ)第一三五号株主総会開催禁止仮処分申立事件)、当庁は、同年四月二日、右臨時株主総会の開催を禁止する旨の決定をした(以下「第一回仮処分決定」という)。

3  第二回仮処分決定までの経緯

(一) 第一回仮処分決定の後、砂岡らは、右同月七日付の「臨時株主総会期日変更のご案内」と題する葉書(甲一八の1)及び同月一三日付の日本経済新聞朝刊の「臨時株主総会期日変更のご案内」と題する案内(甲一八の2)により、被告会社の株主に対し、同月三〇日午前一〇時から、与野市産業文化センターにおいて、本件会議の目的事項について、臨時株主総会、すなわち、本件株主総会を開催することを通知した。

(二) 右葉書には、招集通知に添付されるべき参考書類(株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律二一条の二)が添付されておらず、また、前回同様、株主名簿の閉鎖ないし基準日設定の手続がとられていないので、多くの株主に対して、招集通知がされていない。

(三) 原告らは、同月九日、(一)で招集通知のあった本件株主総会につき、当庁に、開催禁止の仮処分命令を申し立て(平成一一年(ヨ)第一六二号株主総会開催禁止仮処分申立事件)、当庁は、同月一九日、本件株主総会の開催を禁止する旨の決定をした(以下「第二回仮処分決定」という)。

4  本件株主総会の開催

(一) 原告らは、右同月三〇日午前九時半ころ、与野市産業文化センターにおいて、砂岡らに対し、本件株主総会の開催が第二回仮処分決定に反することなどを告げ、本件株主総会を開催しないように求めたが、砂岡らは、同日午前一〇時ころ、与野市産業文化センターの入り口に、本件株主総会の開催場所を砂岡興産に変更する旨の貼り紙をし、本件株主総会の開催場所を変更した。

(二) 同日午前一〇時一五分ころ、砂岡興産において、砂岡らの代理人は、本件株主総会が終了し、本件会議の目的事項が議題どおり可決され、原告ら四名が取締役から解任され、磯田ら七名が取締役に選任されたこと、すなわち、本件株主総会決議がされたことを述べた。

5  取締役及び代表取締役変更登記の申請

砂岡らは、右同日午前中に、浦和地方法務局に対し、原告ら四名の取締役解任登記、原告近藤進茂の代表取締役退任登記、磯田ら七名の取締役就任登記及び砂岡の代表取締役就任登記を申請し、現在、その旨の登記が存するが、砂岡は、本件訴訟において被告会社を代表する監査役吉本満(原告らのうち原告ら四名は、被告会社から取締役の地位にあることを否認されているが、その余の原告らは、取締役の地位にあるので、監査役が被告会社を代表する。)から、本件株主総会及び本件取締役会の議事録等を被告会社に提出するよう求められているのに、その提出をしていない。

三  本件訴訟における争点は、本件株主総会決議及び本件取締役会決議の効力の如何であるが、この点に関する原告の主張は、次のとおりである。

1  本件株主総会決議の効力について

本件株主総会は、招集通知がされていないに等しく、通知された開催場所と異なる場所で開催され、定足数も充たしていないなど、招集手続及び決議方法が法令及び定款に著しく違反し、株主総会としての実体がないのみならず、仮処分決定に違反して開催されたものであるから、本件株主総会決議は、不存在ないし無効である。仮にそうでないとしても、右決議は、招集手続及び決議方法が法令及び定款に違反し、著しく不公正であるから、取り消されるべきである。

2  本件取締役会決議の効力について

本件取締役会に出席したのは、砂岡及び本件株主総会決議で取締役に選任されたと称する磯田ら七名のみであり、取締役である原告矢野、同和田及び被告会社の監査役は、右取締役会の招集通知を受けておらず、右取締役会には出席していない。したがって、本件取締役会決議は、無効である。

第三  当裁判所の判断

一 本件株主総会決議の効力

1 原告の主張する本件株主総会決議不存在の原因は、要するに、招集手続及び決議方法が法令及び定款に違反すること、本件株主総会決議が仮処分決定に違反して開催された株主総会における決議であることにあるが、本件株主総会決議が不存在といえるか否かは、株主総会開催禁止の仮処分に違反して開催された本件株主総会における決議の効力をいかに解するかにかかわっているので、まず、この点につき検討する。

2 思うに、株主総会開催禁止の仮処分は、取締役もしくは株主総会招集権者に対する違法行為の差止請求権を被保全権利として、株主総会開催の禁止を命じるものであるが、右仮処分が、仮処分債務者に対して単純な不作為義務を課すものにとどまるものと解するならば、仮処分決定に違反しても、会社に対する義務違反の責任を生じるだけであって、開催された株主総会における決議の効力は左右されないということになる。しかしながら、右仮処分は、疎明によって発せられるものであるとはいえ、株主総会が法令若しくは定款に違反し又は著しく不公正な手続によって開催されることにより会社が不利益を受けるおそれがある場合に、右株主総会の招集権者にその開催の禁止を命じることによって、会社が右不利益を受けることのないようにし、改めて右のおそれのない状態で株主総会が開催されるべきであるという会社の意思決定の本来的な在り方を実現させようというものであって、これにより会社の利益の保護を図ろうとする趣旨のものであるから、右仮処分の実効性を担保するためには、右仮処分は、これにより仮処分債務者である株主総会の招集権者の当該権限を一時的に剥奪する形成的効力を有するものと解するのが相当である。そして、右仮処分は、右説示したとおり、会社の利益のために命じられるものであるから、その効力は、仮処分債務者のみならず、会社に対しても及ぶものと解すべきであって、右仮処分に違反して開催された株主総会は、結局、無権限者により開催されたものといわなければならない。したがって、そのような株主総会における決議は、他の瑕疵の如何にかかわらず、法律上不存在であると評価されるべきものである。

3 これを本件についてみると、前記前提となる事実によれば、本件株主総会は、第二回仮処分決定に違反して開催されたものであるから、その他の招集手続及び決議方法の法令及び定款違反の有無を判断するまでもなく、本件株主総会決議は法律上不存在というべきである。

二  本件取締役会決議の効力

前記前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば、本件取締役会の構成員は、従前から取締役であった砂岡のほか、本件株主総会決議により取締役に選任されたという磯田ら七名であると認められるところ、一で説示したとおり、本件株主総会決議は法律上存在しないから、本件取締役会は、その構成員のうち磯田ら七名は取締役ではなく、出席した取締役は砂岡一名にとどまり、これでは、およそ正当な取締役会を構成するものとはいえず、その決議には著しく重大な瑕疵が存在するから、本件取締役会決議は無効というべきである。

三  以上によれば、本訴請求は、理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官滝澤孝臣 裁判官齋藤大巳 裁判官平城恭子)

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